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東京地方裁判所 昭和62年(ワ)11834号 判決

主文

原告の被告らに対する請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

理由

【事 実】

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(被告らに対する主位的請求)

1 被告らは、原告に対し、各自、金七億三五八三万円及びこれに対する被告原口行光は昭和六二年九月一〇日から、その余の被告らは同月九日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告らの負担とする。

3 仮執行宣言

(被告西村玄篤に対する予備的請求)

1 被告西村玄篤は、原告に対し、金七億三五八三万円及びこれに対する昭和六二年九月九日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は同被告の負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

(被告旭ライジング株式会社、同石塚昌男、同鞍橋春雄、同西村玄篤、同千葉県)

1  主文と同旨

2  担保を条件とする仮執行免脱宣言

(被告千葉県のみ)

(被告原口行光)

1  本案前の答弁

(一) 同被告に対する本件訴えを却下する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

2  本案に対する答弁

主文と同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  本件土地使用契約の締結

被告西村玄篤(以下「被告西村」という。)は、元千葉県議会副議長であり、別紙物件目録記載の各土地(以下「本件土地」という。)を所有、管理していた者である。

原告は、被告西村から本件土地を借り受けて、産業廃棄物最終処分場とするため、まず、右土地から山砂等の土砂を掘削、採取して販売し、さらに、土砂掘削後にできる窪地に、産業廃棄物運搬、搬入業者からトラックの積載量に応じた投棄処分料を徴収して、産業廃棄物を投棄させ、これを埋め立てた後、整地、覆土して同被告に返還する一連の事業(以下「本件事業」という。)を企図し、昭和五九年四月一六日、同被告との間で、所轄官公庁が土砂採取及び産業廃棄物最終処分場設置届の受理並びにそれに伴う申請等の許認可をすることを条件として、同被告は原告及び訴外総武開発興業株式会社(以下「総武開発」という。)に対し、本件土地を土砂採取及び産業廃棄物の投棄、埋立て並びにこれに伴う残土の処理使用の目的で使用させること、契約期間は右目的の終了まで概ね五年間とすること、原告及び総武開発は同被告に対し、公簿面積三〇〇坪当たり一〇〇万円の残土処理使用料を支払い、そのうち一〇〇〇万円は前渡金として契約と同時に支払うことなどを内容とする本件土地の使用に関する契約(以下「本件土地使用契約」という。)を締結した。

2  産業廃棄物処理業の許可等

千葉県知事は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)一四条に基づく産業廃棄物処理業の許可及び同法一五条に基づく産業廃棄物処理施設の設置等の届出の受理等の事務を国の機関委任事務として行う者である。

原告は、本件事業を実施するため、千葉県知事に対し、産業廃棄物処理業の許可申請及び産業廃棄物処理施設設置の届出を行うこととしたが、右手続に当たり、被告千葉県が、産業廃棄物最終処分処理業を行おうとする者に対しては、産業廃棄物最終処分場計画書を提出させ、同被告の環境部生活環境課と処分場所在地を管轄する市町村長等の意見を聴くなどの事前協議を行つた上で、産業廃棄物最終処分場設置届出書を提出させ、さらに、産業廃棄物処理業の許可申請書を提出させて審査する扱いをしていたため、昭和五九年五月二日、同被告に対し、産業廃棄物最終処分場計画書を提出した。その後、八街町町長から右計画が不適当である旨の回答があつたことなどから、計画変更届を提出するなどしたところ、同町長から被告千葉県に対し、計画が適当である旨の回答がされ、原告は、同年八月八日、千葉県知事に対し、産業廃棄物最終処分場設置の届出をし、同日、同知事から廃棄物処理施設確認の通知を受け、さらに、同月三〇日、同知事に対し、産業廃棄物処理業の許可を申請し、翌三一日、同知事から、処理対象となる産業廃棄物の種類を廃プラスチック類等とするいわゆる安定型とすること、その最終処分場を本件土地とすること、処分は三期に分けて行うこと(以下、各期の事業対象区域をそれぞれ「第一工区」、「第二工区」、「第三工区」という。)などを内容とする産業廃棄物処理業の許可を受け、右許可証の交付を受けた。

3  本件事業の遂行

原告は、その後、本件土地を産業廃棄物最終処分場(以下「本件処分場」という。)とし、訴外株式会社昇工業(以下「昇工業」という。)らに産業廃棄物の搬入、投棄のための搬入券の販売をさせるなどして、本件事業を行つた。

右事業の遂行に当たつては、原告は前記許可申請手続のほか、資金の調達、人的組織の整備、物的設備の設置、拡充、本件土地の近隣住民との交渉、山砂等の販売代金及び投棄処分料の回収、本件事業関係者に対する金員の支払など本件事業の発案から運営、管理に至るまで、経理処理の都合から原告が取締役を務める訴外株式会社ナショナル・インフォメーション・センター(以下「ニック」という。)名義で集金業務及び支払業務の一部を処理した以外は、すべて原告の名義及び計算で行い、原告自らが本件事業に関する利益の帰属主体であり、損失の負担者であつた。

4  被告らの不法行為

(一) 千葉県知事は、昭和五九年一二月六日及び昭和六〇年一月一四日、本件処分場の立入検査を実施したが、その際、右立入検査を担当した被告千葉県の職員は、原告に対し、同処分場内に産業廃棄物が山積み状態にされていたことなどについて改善するよう指導した。原告は、これに従い、産業廃棄物の搬入を中止して右状態の改善を図つたが、作業がはかどらなかつたため、同知事は、原告に対し、同年二月七日、同年一月二九日付勧告書を交付して、本件処分場の改善措置を勧告した。右勧告は、許可品目外の木くず、紙くずの搬入、許可地外での産業廃棄物の保管及び埋立て、産業廃棄物最終処分場設置届出書どおりに処分場が造成されていないこと、特に、えん堤の不備、処分場の法面の急勾配及び地下水層までの掘削、最終処分場の処理能力を超えた産業廃棄物の搬入、産業廃棄物の飛散、流出、囲いの破損、中間覆土の実施が不明であることを指摘して改善を求める内容であつた。原告は、これに従い、引き続き産業廃棄物の搬入を中止して本件処分場内の整備、改善に努めた。

(二)(1) 被告石塚昌男(以下「被告石塚」という。)は、一般建築の請負及び設計監理並びに産業廃棄物の処理、収集及び運搬等を目的とする被告旭ライジング株式会社(以下「被告旭ライジング」という。)の代表取締役、被告鞍橋春雄(以下「被告鞍橋」という。)はその社員であり、また、被告原口行光(以下「被告原口」という。)は、八街町町長であつて、被告千葉県が産業廃棄物処理業の許可手続に当たり行つている事前協議において、同被告の環境部生活環境課が行う意見照会に対する回答を行つていた者である。

右被告らは、被告西村及び訴外鈴木吉五郎、同岸悦郎、同小出賢一、同向後浅次郎、同米田豊らと共謀して、本件処分場における産業廃棄物処理事業を被告石塚に承継させようと企て、鈴木、岸、小出及び向後は、昭和六〇年六月六日、本件処分場に乗り込み、原告を同処分場内の事務所に呼び出して、「ゴミを高く積んであるのは公害だ。」、「二度と仕事ができないようにしてやる。」などと申し向けて脅迫し、さらに、本件処分場の出入口に街宣車を横付けしたままにして、産業廃棄物運搬車両の出入りを妨害したため、原告は、本件処分場で産業廃棄物処理業を遂行することができなくなつた。

(2) 原告は、昭和六〇年六月一一日、右紛争を解決するため、訴外中山光幸の仲介で、鈴木らと交渉したところ、鈴木らから一二〇〇万円の支払を要求されて、これに応じることとし、同月一七日、内金七〇〇万円を交付し、さらに、不足分の担保とするため、原告所有の建物の登記簿謄本及び原告の印鑑証明書を交付した。

(3) 原告は、同じころ、中山が事件解決のために被告千葉県の中野副知事と面会する際、同副知事に信用してもらうために原告の産業廃棄物処理業についての許可証の原本を提出する必要があるなどと申し向けたため、右許可証の原本を中山に交付した。

(4) しかし、鈴木らは、その後も妨害を続け、さらに、原告が使用していた現場作業員を本件処分場から退去させたため、原告は、仕事ができず、また、被告千葉県の前記改善勧告に従つた改善工事も実施できなくなつた。

(5) 千葉県知事は、昭和六〇年六月七日、本件処分場の立入検査を実施し、原告に対し、同月二九日付勧告書を同年七月一日に交付して、再度本件処分場の改善措置を勧告した。右勧告は、地下水層まで掘削し産業廃棄物を埋めたことに対する改善、急勾配法面の改善、中間えん堤及び隣地境界えん堤の改善、中間覆土の施行、場内に保管してある産業廃棄物の措置、囲いの修復、産業廃棄物の飛散防止策の実施を求める内容であつた。原告は、同じころ、搬入券の販売先業者からも苦情を受けることとなつたため、改善工事のための作業員の派遣を被告石塚に依頼した。

(三)(1) その後、昭和六〇年八月五日、千葉県知事に対し、原告名義で、本件処分場管理者を被告旭ライジングに変更する旨の届出がされ、同じころ、被告石塚は、原告に無断で、被告旭ライジングの名義で、産業廃棄物の搬入業者に対し、同被告が原告から委任を受けて総括責任者として本件処分場における産業廃棄物処理業を遂行することになつたこと、原告の発行した搬入券は無効であるから新券と交換すること、第二工区以降の埋立てに際しては、新券のみを使用することなどを記載した通知を送付した。

(2) 被告石塚は、中山から原告の産業廃棄物処理業についての許可証の原本の交付を受け、昭和六〇年九月一四日、原告の実弟からその経営する会社が倒産した際に保証等の目的で預かつていた原告の実印を無断で使用して、被告鞍橋に右許可に関する原告名義の産業廃棄物処理業の廃止届出書、被告旭ライジング名義の産業廃棄物処理施設廃止届出書及び原告名義の産業廃棄物処理業の廃止届出書提出についての委任状を偽造させ、同日、訴外原田忠にこれらの偽造書類と原告の印鑑証明書及び原告名義の産業廃棄物処理業の許可証の原本を被告千葉県に提出させた。

(3) さらに、被告石塚は、同西村と共謀の上、同月一七日、被告千葉県に対し、被告旭ライジング名義で、本件土地を最終処分場とする産業廃棄物最終処分場計画書を提出した。

(4) 被告千葉県環境部生活環境課の担当職員らは、原告が、同被告の前記改善勧告に従つた改善作業を継続中であること及び本件処分場に関して事業の遂行が妨害されるなどその土地使用権原等をめぐる私法上の紛争が継続中であることを知つており、前記各廃止届について、その真偽を原告に確認すべき義務を負つていたにもかかわらず、これを怠り、漫然と右各廃止届の受理手続をとつた。また、右担当職員らは、産業廃棄物最終処分場計画書についても、申請に係る最終処分場の使用権原の存否についての審査義務を負い、特にその使用権原について合理的疑義が生じた場合には、申請者に対し、その点についての説明を求めるなどの措置を講じ、又は右のような疑義が解消されるまで許可事務を中止する措置を講ずべき義務を負つており、被告旭ライジング名義の前記産業廃棄物最終処分場計画書は、右廃止届が提出された土地と同一の土地であつて、右職員らが右土地をめぐつて私法上の紛争が継続しているのを知つていた土地を対象とし、かつ、前記各廃止届の提出からわずか二日後に提出されているのであるから、申請名義人である被告旭ライジング等に対し、その点についての説明を求めるなどの措置を講じ、又は右のような疑義が解消されるまで許可事務を中止すべき注意義務があつたにもかかわらず、これを怠り、右処分場及び施設の状態、これらの使用権原の存否、内容等の私法上の権利関係などの点について、何ら調査ないし審査をすることなくこれを受理した。

(5) 被告原口は、八街町町長として、同年九月二六日、被告千葉県から、右産業廃棄物最終処分場計画書についての意見照会を受けた。被告千葉県における事前協議制度の運用の実態は、所轄市町村長が、同被告による意見照会に対する回答において、産業廃棄物最終処分場計画書に対して問題点を指摘したり、改善を要望した場合などには、申請者が右問題の除去や改善措置の実施等の方策を講じない限り、事前協議が調わないものとして、産業廃棄物処理施設設置の届出や産業廃棄物処理業の許可申請は事実上認められず、逆に所轄市町村長から異議がない旨の回答があつた場合や産業廃棄物最終処分場計画書に対して問題点を指摘したり、改善を要望した場合などであつても申請者が十分な方策を講じた場合には、事前協議が完了したものとして、産業廃棄物処理施設設置の届出の受理や産業廃棄物処理業の許可は形式的、確認的に行われるにすぎない。したがつて、産業廃棄物処理施設設置の届出や産業廃棄物処理業の許可申請をする場合には、右のような事前協議手続における所轄市町村長の回答が実質上は決定的に重要な意義を有しており、さらに、八街町において、同年三月二七日付の同町公害対策審議会会長の答申により、同日以降一切の産業廃棄物の埋立てを許可しないこととされていたことから、被告原口としては、八街町町長として右照会に回答する前提として、右答申を遵守し、また、町議会及び公害対策審議会の審議に付し、さらには、近隣住民の意見を求めるなどの手続をとるべき義務を負つていたにもかかわらず、同被告は、右手続を履践することなく、即日、右計画書に異議がない旨回答した。

(6) 原告は、同月二五日、前記各廃止届の提出の事実を知り、翌二六日、被告千葉県環境部生活環境課の担当職員らに対し、右各廃止届の原告の住所の記載が誤つていることや筆跡が原告のものではないことなどを指摘して、右各廃止届は偽造されたものである旨抗議し、原告代理人高橋直治弁護士も同年一〇月一日付書面で被告旭ライジング名義の産業廃棄物処理業の許可手続を中断し、関係者より事情調査することを要求したが、被告千葉県の担当職員はこれに対して許可手続を中断するなどの特段の措置を講じなかつた。

(7) 被告旭ライジングは、千葉県知事に対し、昭和六〇年一〇月一一日付で産業廃棄物最終処分場設置の届出をし、同知事は、同月二四日、同被告に対し、産業廃棄物処理施設確認通知書を交付した。さらに、同被告は、同月二六日、同知事に対し、産業廃棄物処理業の許可を申請し、同知事は、同年一一月一六日、これを許可をした。被告千葉県は、この時点でも、申請に係る最終処分場の使用権原の存否についての審査義務を負い、その使用権原について合理的疑義が生じた場合には、申請者に対し、その点についての説明を求めるなどの措置を講じ、又は右のような疑義が解消されるまで許可事務を中止する措置を講ずべき義務を負つていたにもかかわらず、処分場及び施設の状態、これらの使用権原の存否、内容等の私法上の権利関係などの点について、何ら調査ないし審査をすることなく、届出の受理手続及び許可手続をとつた。

(8) 被告石塚は、その後、被告旭ライジング名義で本件事業を継続し、本件処分場についてはほぼ埋立てを完了した。

(四) 以上のような被告らの行為により、原告は、予定していた本件事業のうち、本件処分場の第二工区及び第三工区の土砂の採取及び埋立てをすることが不可能になつたものであり、右被告らの行為は、共同不法行為に当たる。

被告原口の行為は、公務員たる八街町町長としての行為の形式をとつて行われたものであるが、国家賠償法の適用がある場合であつても、公務員に故意又は重過失がある場合には公務員個人も不法行為責任を負うと解されるし、仮に同法の適用がある場合には公務員個人の不法行為責任が認められないと解するとしても、公務員が害意ともいうべき故意をもつて、本来行うべき義務を一切履践しなかつたような著しい職権濫用行為を行つた場合には、その行為の職務行為性が否定されると解されるところ、本件における同被告の行為はこれらの行為に該当するから、同被告は個人として不法行為責任を負う。

5  被告西村に対する予備的主張

本件土地使用契約において、被告西村は、原告との間で、原告が本件土地において、本件事業を遂行することを妨害しないことを合意し、その義務を負つていたにもかかわらず、前記のとおり、被告石塚らと共謀して、原告の本件事業の遂行を妨害し、これを不可能にさせたものであるから、債務不履行責任を免れない。

6  損害

原告は、本件事業のうち、本件処分場の第二工区及び第三工区の土砂の採取及び埋立てが不能となつたことにより、以下のとおり合計七億三五八三万円の得べかりし利益を喪失し、同額の損害を被つた。

(一) 土砂販売収入

(1) 山砂 一〇トン車一台当たりの価格 四〇〇〇円

採取不能となつた土砂 一〇トン車一万一一四四台分

得べかりし利益 四〇〇〇(円)×一万一一四四(台)=四四五七万六〇〇〇(円)

(2) 黒土 一〇トン車一台当たりの価格 一万円

採取不能となつた土砂 一〇トン車七六一台分

得べかりし利益 一万(円)×七六一(台)=七六一万(円)

(3) 赤土 一〇トン車一台当たりの価格 四〇〇〇円

採取不能となつた土砂 一〇トン車一三六台分

得べかりし利益 四〇〇〇(円)×一三六(台)=五四万四〇〇〇(円)

(二) 産業廃棄物投棄料収入

一〇トン車一台当たりの価格 三万円

投棄不能となつた産業廃棄物 一〇トン車二万二七七〇台分

得べかりし利益 三万(円)×二万二七七〇(台)=六億八三一〇万(円)

7  よつて、原告は、被告らに対し、被告千葉県については国家賠償法一条一項に基づき、被告西村については主位的に不法行為、予備的に債務不履行に基づき、その余の被告らについては不法行為に基づき、各自、七億三五八三万円及びこれに対する被告西村に対する予備的請求については訴状送達の後の日、その余の請求については不法行為の後の日である被告原口については昭和六二年九月一〇日から、その余の被告らについては同月九日からそれぞれ支払済みまで、被告西村に対する予備的請求については商事法定利率年六分の割合による、その余の請求については民法所定の年五分の割合による各遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  被告旭ライジング、同石塚及び同鞍橋の認否

請求原因1の事実のうち、原告と被告西村との間で本件土地使用契約が締結されたことは認めるが、その余は知らない。

同2の事実のうち、原告が、昭和五九年八月八日に千葉県知事に対し、廃棄物処理法一五条一項に基づき産業廃棄物最終処分場設置の届出をし、同知事から設置確認の通知を受け、さらに、同月三〇日、同知事に対し、同法一四条一項に基づく産業廃棄物処理業の許可を申請し、翌三一日、同知事から、処理対象となる産業廃棄物の種類を廃プラスチック類等とするいわゆる安定型とすること、その最終処分場を本件土地とすること、処分は三期に分けて行うことなどを内容とする産業廃棄物処理業の許可を受けて、許可証の交付を受けたことは認めるが、その余は知らない。

同3の事実のうち、原告が本件事業の遂行に当たつて、許可、届出等の手続のほか、資金の調達、人的組織の整備、物的整備の設置、拡充、本件土地の近隣住民との交渉、山砂等の販売代金及び投棄処分料の回収、本件事業関係者に対する金員の支払など本件事業の発案から運営、管理に至るまで、原告の名義及び計算で行い、原告自らが本件事業に関する利益の帰属主体及び損失の負担者であつたことは否認し、その余は知らない。

同4の(一)の事実は知らない。同4の(二)の事実のうち、被告石塚が一般建築の請負及び設計監理並びに産業廃棄物の処理、収集及び運搬等を目的とする被告旭ライジングの代表取締役、被告鞍橋がその社員であつたことは認めるが、被告旭ライジング、同石塚及び同鞍橋が原告主張の共謀に加わつたことは否認し、その余は知らない。同4の(三)の事実のうち、被告旭ライジングが、昭和六〇年九月一七日に被告千葉県に対し、本件土地を最終処分場とする産業廃棄物最終処分場計画書を提出したこと、千葉県知事が同年一一月一六日に被告旭ライジングに対して産業廃棄物処理業の許可をしたこと並びに(8)の事実は認めるが、(1)及び(2)の各事実並びに被告西村との共謀は否認し、その余は知らない。同4の(四)の事実は否認する。

同6の事実は否認する。

2  被告西村及び同原口の認否

請求原因1の事実のうち、被告西村が元千葉県議会副議長であり、本件土地を所有、管理していたことは認めるが、その余は知らない。

同2の事実のうち、千葉県知事が廃棄物処理法一四条に基づく産業廃棄物処理業の許可及び同法一五条に基づく産業廃棄物処理施設の設置等の届出の受理等の事務を国の機関委任事務として行う者であること、原告が、昭和五九年八月八日に同知事に対し、廃棄物処理法一五条一項に基づき産業廃棄物最終処分場設置の届出をして受理され、さらに、同月三〇日、同知事に対し、同法一四条一項に基づく産業廃棄物処理業の許可を申請し、翌三一日、同知事から、処理対象となる産業廃棄物の種類を廃プラスチック類等とするいわゆる安定型とすること、その最終処分場を本件土地とすること、処分は三期に分けて行うことなどを内容とする産業廃棄物処理業の許可を受け、右許可証の交付を受けたことは認めるが、その余は知らない。

同3の事実は知らない。

同4の(一)の事実のうち、原告主張の時期に千葉県知事の立入検査及び改善勧告、被告千葉県担当職員による指導が行われたこと、改善勧告が、地下水層まで掘削し産業廃棄物を埋めたことに対する改善、急勾配法面の改善、中間えん堤及び隣地境界えん堤の改善、中間覆土の施行、場内に保管してある産業廃棄物の措置、囲いの修復、産業廃棄物の飛散防止策の実施を求める内容であつたことは認めるが、その余は知らない。同4の(二)の事実のうち、被告石塚が一般建築の請負及び設計監理並びに産業廃棄物の処理、収集及び運搬等を目的とする被告旭ライジングの代表取締役、被告鞍橋がその社員であつたこと、被告原口が八街町町長として、被告千葉県が産業廃棄物処理業の許可手続に当たり行つている事前協議において、同被告の環境部生活環境課が行う意見照会に対する回答を行つていたこと、千葉県知事が原告に対し昭和六〇年六月二九日付勧告書を同年七月一日に交付して、再度本件処分場の改善措置を勧告したこと、右勧告が地下水層まで掘削し産業廃棄物を埋めたことに対する改善、急勾配法面の改善、中間えん堤及び隣地境界えん堤の改善、中間覆土の施行、場内に保管してある産業廃棄物の措置、囲いの修復、産業廃棄物の飛散防止策の実施を求める内容であつたことは認めるが、被告西村及び同原口が原告主張の共謀に加わつたことは否認し、その余は知らない。同4の(三)の事実のうち、八街町公害対策審議会会長の答申があつたこと、被告原口が被告千葉県からの意見照会に対し、八街町町長として、同町の町議会及び公害対策審議会の審議を経ずに回答をしたことは認めるが、原告主張の被告石塚との共謀は否認し、その余は知らない。同4の(四)及び同5の各事実は否認する。

同6の事実は否認する。

3  被告千葉県の認否

請求原因1の事実のうち、被告西村が元千葉県議会副議長であつたことは認めるが、その余は知らない。

同2の事実は認める。

同3の事実は知らない。

同4の(一)の事実のうち、千葉県知事が昭和五九年一二月六日及び昭和六〇年一月一四日に本件処分場への立入検査を実施し、その際、被告千葉県の担当職員が原告に対し改善を指導したこと、千葉県知事が、原告に対し、同月二九日付勧告書を同年二月七日に交付し、本件処分場の改善措置を勧告したことは認めるが、その余は知らない。同4の(二)の事実のうち、被告石塚が一般建築の請負及び設計監理並びに産業廃棄物の処理、収集及び運搬等を目的とする被告旭ライジングの代表取締役であつたこと、被告原口が八街町町長として、被告千葉県が産業廃棄物処理業の許可手続に当たり行つている事前協議において、同被告の環境部生活環境課が行う意見照会に対する回答を行つていたこと、千葉県知事が昭和六〇年六月七日に本件処分場への立入検査を実施し、原告に対し、同月二九日付勧告書を同年七月一日に交付して、再度本件処分場の改善措置を勧告したことは認めるが、その余は知らない。同4の(三)の事実のうち、昭和六〇年八月五日に千葉県知事に対し原告名義で本件処分場管理者を被告旭ライジングに変更する旨の届出がされたこと、原田忠が同年九月一四日に原告名義の産業廃棄物処理業の廃止届出書、被告旭ライジング名義の産業廃棄物処理施設廃止届出書及び原告名義の産業廃棄物処理業の廃止届出書提出についての委任状と原告の印鑑証明書及び原告名義の産業廃棄物処理業の許可証の原本を被告千葉県に提出したこと、被告旭ライジングが、同月一七日に被告千葉県に対し、本件土地を最終処分場とする産業廃棄物最終処分場計画書を提出したこと、被告千葉県から八街町町長に対し、被告旭ライジングが提出した産業廃棄物最終処分場計画書についての意見照会がされたこと及び八街町町長から同月二六日に異議がない旨の回答があつたこと、原告が同日、被告千葉県の担当職員らに対し、右各廃止届の筆跡が原告のものではないことを指摘して、右各廃止届は偽造されたものである旨申し入れたこと、原告代理人高橋直治弁護士が同年一〇月一日付書面で被告旭ライジング名義の産業廃棄物処理業の許可手続を中断し、関係者より事情調査することを要求したこと、被告旭ライジングが、千葉県知事に対し、同月一一日付で産業廃棄物最終処分場設置届出書を提出し、同知事は、同月二四日、同被告に対し、廃棄物処理施設確認通知書を交付したこと、同被告が、同月二六日、同知事に対し、産業廃棄物処理業の許可を申請し、同知事が、同年一一月一六日、同被告に対し、産業廃棄物処理業の許可をしたことは認めるが、その余は否認する。同4の(四)の事実は否認する。

同6の事実は否認する。

三  被告らの主張

1  被告旭ライジング、同石塚及び同鞍橋の主張

(一) 本件事業の主体

本件事業の主体は、当初から被告旭ライジングであり、原告は、形式上、本件事業における産業廃棄物処理業の許可名義人とされ、同被告から現場管理及び搬入券の販売という限定された範囲で事業への関与を認められていたにすぎないから、本件事業の遂行により自ら利益を享受しうる地位にはなかつた。すなわち、原告は、当初、本件事業を自ら遂行したいとの希望を抱いていたが、単独では、本件土地の所有者である被告西村の信用が得られずに、本件土地の使用許諾を得られなかつたものであり、資金、信用及び経営能力のいずれの面においても右事業を遂行するのは困難であつたため、被告旭ライジングを主体として本件事業を行うことになつた。しかし、被告旭ライジングも本業である不動産取引業との関係から自らの名義で本件事業を遂行することを望まなかつたため、原告が形式上本件事業における産業廃棄物処理業の許可名義人となり、被告旭ライジングが本件土地使用に関する経費を含む関係準備費及び開業後の運営費等の出捐、本件事業準備行為に関する書類の作成、事業企画、事業関係者との折衝などをすべて行うこととして、被告西村との間で本件土地使用契約を締結し、本件事業を遂行したものである。

(二) 原告名義の産業廃棄物処理業の廃止届の提出等の経緯

原告は、当初、本件事業における現場管理及び搬入券の販売等の業務を担当していたが、無計画に大量の搬入券を販売し、また、ずさんな現場管理のために公害問題を口実とした妨害行為を招き、産業廃棄物の搬入が不能な状態となり、搬入券購入業者に多大な迷惑を及ぼすとともに、千葉県知事から二度にわたり改善勧告を受け、許可取消のおそれも生ずるに至つたため、被告旭ライジングは、原告の委任に基づき、本件処分場の管理者変更届、原告名義の産業廃棄物処理業の廃止届及び被告旭ライジング名義の産業廃棄物処理施設の廃止届を提出し、また、自ら本件土地を最終処分場とする産業廃棄物処理業の許可を得るなどして、形式的にも実質的にも本件事業の主体となつたものである。原告は、千葉県知事からの第二回目の改善勧告を受け、被告西村からもこれ以上原告名義で本件事業を遂行するのであれば、本件土地の使用継続には異議がある旨の意思が表明されたことから、原告名義での本件事業の遂行を断念して、現場管理等の担当を放棄する旨表明し、現場管理者、事業者の名義を変更するための諸手続を含む一切の善後策を被告旭ライジング及び同西村に委ね、実印、白紙委任状及び印鑑証明書を交付して委任したものである。

したがつて、被告石塚らが、原告が不法行為として主張する原告名義の産業廃棄物処理業の廃止届の提出等の行為によつて、原告の権利を侵害したものでないことは明らかである。

(三) 原告による本件事業遂行の可能性

原告は、右のとおり、無計画に大量の搬入券を販売し、また、ずさんな現場管理のために公害問題を口実とした妨害行為を招き、産業廃棄物の搬入が不能な状態となり、千葉県知事から二度にわたり改善勧告を受けていたものであり、その後も本件事業を自ら遂行して行くことは客観的に不可能だつたのであるから、被告らの行為と原告の主張する損害との間には因果関係がない。

2  被告西村及び同原口の主張

(一) 本件土地使用契約の締結主体

原告は、昭和五九年四月一〇日、被告西村に対し、産業廃棄物の最終処分場として使用するために本件土地を使用させて欲しい旨の申入をしたが、同被告は、原告を信頼できなかつたため、これに応じなかつたところ、被告石塚が、同月一三日、原告らとともに被告西村を訪ね、本件土地を使用させて欲しい、被告石塚の名前で産業廃棄物の最終処分場を設置するのは問題があるので、同被告の代わりに総武開発を契約当事者に加えるなどと申し向けたため、これに応ずることとし、被告鞍橋と具体的な契約条件について交渉した後、本件土地使用契約を締結し、契約書に定められた金員の支払は、すべて被告石塚が代表取締役を務める訴外旭株式会社が行つた。したがつて、本件土地使用契約の締結主体は、原告ではなく、被告石塚又は同人が代表取締役を務める会社であつて、被告西村もそのように認識していた。

(二) 原告名義の産業廃棄物処理業の廃止届の提出等の経緯

被告西村は、原告が本件処分場についてずさんな現場管理をし、被告千葉県の指導や千葉県知事の改善勧告にも従わなかつたため、被告石塚や同鞍橋に対し、再三にわたり、本件処分場の管理を原告に任せず、自ら行うよう求め、昭和六〇年七月一日に、原告、被告石塚、原田とともに、被告千葉県の環境部長のもとを訪れ、同部長が原告に対して第二回目の勧告書を手交した際にも、被告石塚が責任をもつて改善措置を取つてほしい旨述べたところ、原告も被告石塚に対し、すべて任せますと述べたため、被告旭ライジングが、管理者変更届、原告名義の産業廃棄物処理業の廃止届及び被告旭ライジング名義の産業廃棄物処理施設の廃止届を提出し、また、自らが本件土地を最終処分場とする産業廃棄物処理業の許可を得て、形式的にも本件事業の主体となつたものである。

(三) 被告旭ライジングの産業廃棄物最終処分場計画書に関する意見照会に対する被告原口の回答の手続

八街町公害対策審議会条例二条は、八街町公害対策審議会は町長の諮問に応じて審議すると定めているが、産業廃棄物最終処分場計画書に関する意見照会に対する回答について審議会の審議に付することを要求する規定はなく、また、被告旭ライジングの産業廃棄物最終処分場計画書に関する意見照会については、千葉県知事の二回目の改善勧告に対して、総括責任者として改善工事をした被告旭ライジングの産業廃棄物処理業の許可申請に関するものであり、公害を出さないことが予想できたため、被告原口が、特に審議会の審議を求めずに回答したものであつて、右回答の手続に違法性はない。

3  被告千葉県の主張

(一) 産業廃棄物処理業の許可の性質

産業廃棄物処理業の許可は、都道府県知事が、国の機関として廃棄物処理法一四条所定の事務として行つているものであつて、都道府県が地方公共団体固有の事務として執行するものではないから、被告千葉県が産業廃棄物処理業の許可行為について国家賠償法一条一項の責任を負うことはない。

(二) 同一土地を対象とする産業廃棄物処理業の二重許可行為の違法性

産業廃棄物処理業の許可は、生活環境の保全及び公衆衛生の向上という公共の福祉を目的とした一般的禁止を特定の場合に解除する行政行為であり、特定の施設を利用して営む営業について許可が行われたとしても、これによつて許可申請者が当該営業をするために必要な施設の使用権を有していることを確認するものではないし、その施設についての使用権を付与するものでもないのであつて、同一の土地及び施設を最終処分場とする許可が二重に行われたとしても、これらが相互に矛盾するものではなく、また、許可申請又は許可の先後によつてその取扱いに優劣をつけるべき法律上の根拠もないから、最終処分場の使用権がいずれにあるかは、専ら私法上の関係によつて決せられ、産業廃棄物処理業の許可とは全く別個の問題となる。したがつて、都道府県知事は、産業廃棄物処理業の許可にあつては、生活環境の保全、公衆衛生の維持確保の観点からみて、廃棄物処理法一四条二項所定の技術上の基準及び資格要件に適合するかどうかによつて決定すべきであつて、その際に、土地及び施設の私法上の権利関係を実質的に審査したり、この点を理由として許可を与えないことは原則としてできず、ただ許可申請書に最終処分場として記載された土地及び施設につき、許可申請者が使用権原を取得できる可能性がないことが客観的に明白であると認められる場合に、条理上、許可を与えないことができるにすぎない。

したがつて、本件において、千葉県知事に土地及び施設の私法上の権利関係を実質的に審査したり、許可手続を一時中止したりする義務はなく、同知事が被告旭ライジングに対して産業廃棄物処理業の許可を与えたことに違法性はない。

(三) 千葉県知事の行為と原告の損害との因果関係

千葉県知事が原告名義の産業廃棄物処理業の廃止届を受理したとしても、これが偽造であれば、原告に対する従前の産業廃棄物処理業の許可が失効するわけではないし、また、同知事が被告旭ライジングに対して産業廃棄物処理業の許可をしたとしても、これが原告に対する許可の効力に影響を及ぼすことはないのであつて、原告が本件土地において産業廃棄物処理業を営めなくなつたのは専ら本件土地の使用権をめぐる私法上の紛争に起因するものであるから、千葉県知事の行為と原告の損害との間に因果関係は認められない。

第三  証拠《略》

【理 由】

第一  被告原口の本案前の答弁について

被告原口は、本案前の答弁として、原告の同被告に対する訴えの却下を求めており、弁論の全趣旨によれば、その理由とするところは、右請求が、同被告が公務員である八街町町長として同町の事務として行つた行為についての不法行為に基づく損害賠償請求であり、このような場合には、被告適格は八街町にあるのであつて、被告原口個人にはないとするところにあるものとみられるが、これは訴訟要件の問題ではなく、実体判断の問題であるから、同被告の右本案前の答弁は理由がない。

第二  本案について

一  本件事業に関する事実経過について判断する。

1  本件土地使用契約の締結

被告西村が元千葉県議会副議長であつたことは、原告と被告西村、同原口及び同千葉県との間で、被告西村が本件土地を所有、管理していたことは、原告と被告西村及び同原口との間で、原告と被告西村との間で本件土地使用契約が締結されたことは、原告と被告旭ライジング、同石塚及び同鞍橋との間で、それぞれ当事者間に争いがない。

右争いのない事実に、《証拠略》を総合すれば、以下の事実が認められ(る。)《証拠判断略》

原告は、建売及び注文住宅の建設、造成土木等を業とする有限会社加治川建設の代表取締役であり、同時に原告の実弟神田広栄が代表取締役を務め、有限会社加治川建設が建築した建物の販売、管理等を業とする加治川建設株式会社の経営にも実質的に関与していたが、右両社は昭和五八年ころから、建売住宅の売れ行きの悪化などが原因で、多額の負債を負い、その合計額は四、五億円ないし七、八億円に達した。そこで、原告は、昭和五八年夏ないし秋ころ、産業廃棄物処理事業を行い、これによつて得た利益で、右両社の債務を返済しようと計画した。

原告は、昭和五八年一〇月ないし一二月ころ、かねてから面識のあつた被告石塚に対し、千葉県成田市芝字椎ノ木二〇五八-一外の土地(以下「椎ノ木の土地」という。)について、同土地は山砂を採取できる土地であるから、被告旭ライジングがこれを購入して、原告にそこで採取した山砂の販売をさせて欲しい旨持ち掛け、さらに、後日になつて、右土地を産業廃棄物の処分場にしてはどうかとも持ち掛けたが、被告石塚は、これに応じなかつた。原告は、椎ノ木の土地の一部について、昭和五九年三月五日、株式会社大新メッセンジャーを設置者、原告を施工者とする同社名義の産業廃棄物最終処分場設置届出書を千葉県知事に提出し、同知事から同月一〇日付で廃棄物処理法一五条五項、八条三項ただし書による廃棄物処理施設確認の通知を受けたが、実際に産業廃棄物の搬入を行うまでには至らなかつた。

原告は、同年三月ころ、本件土地が処分場に適した土地である旨の情報を得たため、元千葉県議会副議長で、本件土地の一部を所有、管理していた被告西村からその所有地を借り受けるなどして、本件事業を行うことを企図し、被告石塚に協力を求めたが、同被告は当初この申入れにも応じなかつた。

原告は、同年四月一〇日、被告西村に本件土地の使用契約の締結を申し入れ、これを断られたが、被告石塚の名義であれば被告西村が右契約の締結に応ずる可能性があると考え、被告石塚にその旨伝えたところ、同被告も本件土地で産業廃棄物処理業を行うことを検討する意向であつたため、同月一三日、同被告とともに被告西村を訪ねた。被告西村は、原告には本件土地で産業廃棄物処理業をするだけの信用がないが、原告ではなく被告石塚又は同被告の経営する被告旭ライジング若しくは旭株式会社が事業を行うのであれば、本件土地を使用させて右土地を有効に利用したい旨述べたため、被告石塚は、本件土地を借り受け、右事業を当初から企画した原告も参画させて、産業廃棄物処理業を行うこととした。被告西村は、被告石塚又は被告旭ライジング若しくは旭株式会社の名義で本件土地の使用契約を締結したいと希望したが、被告石塚は、宅地建物取引業を営む被告旭ライジング、旭株式会社等の代表取締役であると同時に千葉県宅地建物取引業協会の区会長及び千葉県船橋市京葉支部の支部長をも務めていたところ、トラブルを起こした場合に行政処分を受けるおそれがあり、産業廃棄物処理業は従前実施したこともなかつたことから、右事業を被告石塚又はその経営する会社の名義で行うことには不都合があると考え、形式上、原告を契約名義人にすると同時に、総武開発を同被告に代わる契約名義人に加えることとして、被告西村の了解を得た上で、同月一六日、同被告との間に原告及び総武開発の名義で本件土地使用契約が締結された。

同契約は、所轄官公庁が土砂採取及び産業廃棄物最終処分場設置届の受理並びにそれに伴う申請等の許認可をすることを条件として、同被告は原告及び総武開発に対し本件土地を土砂採取及び産業廃棄物の投棄、埋立て並びにこれに伴う残土の処理使用の目的で使用させること(一条)、契約機関は右目的の終了まで概ね五年間とすること(三条)、原告及び総武開発は同被告に対し、公簿面積三〇〇坪当たり一〇〇万円の残土処理使用料を支払い、そのうち一〇〇〇万円は前渡金として契約締結と同時に支払うこと(二条)などを内容とし、さらに、被告西村が契約当事者を原告としたことにより後日紛争が生じることを危惧したため、契約書の表題は賃貸借契約書ではなく土砂等の採取並びに産業廃棄物等の投棄埋立てに関する契約書とされ、また、事業遂行上のトラブルが発生した場合を予定して、産業廃棄に関するトラブルは一切原告が責任をもつて解決すること(一〇条(4))、原告又は総武開発の事由により本件事業を継続できなくなつた場合には、被告西村の承諾を得た上、原告及び総武開発の指定する第三者に権利義務を継承させ、本件事業の完成を図り、被告西村に対し一切迷惑をかけないこと(八条)などの条項も置かれた。さらに、被告西村は、産業廃棄物処理業の許可申請等の名義についても原告と総武開発の連名として欲しい旨要望したが、法人を名義人とする場合には、定款変更その他の手続が必要となるため、原告単独の名義で行うことで合意した。

右契約に基づく残土処理使用料の前渡金一〇〇〇万円は、旭株式会社の出捐により支払われた。

2  産業廃棄物処理業の許可の経緯

千葉県知事が廃棄物処理法一四条に基づく産業廃棄物処理業の許可及び同法一五条に基づく産業廃棄物処理施設の設置等の届出の受理等の事務を国の機関委任事務として行うものであることは、原告と被告西村、同原口及び同千葉県との間で当事者間に争いがなく、原告とその余の被告らとの間では弁論の全趣旨によつてこれを肯認することができ、また、原告が、昭和五九年八月八日に千葉県知事に対し、廃棄物処理法一五条一項に基づき産業廃棄物最終処分場設置の届出をし、同知事から設置確認の通知を受け、さらに、同月三〇日、同知事に対し、同法一四条一項に基づく産業廃棄物処理業の許可を申請し、翌三一日、同知事から、処理対象となる産業廃棄物の種類を廃プラスチック類等とするいわゆる安定型とすること、その最終処分場を本件土地とすること、処分は三期に分けて行うことなどを内容とする産業廃棄物処理業の許可を受けて、許可証の交付を受けたことは当事者間に争いがない。

右事実に、《証拠略》を総合すれば、以下の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

原告は、本件土地に産業廃棄物最終処分場を設置して本件事業を実施するため、千葉県知事に対する廃棄物処理法一四条に基づく産業廃棄物処理業の許可及び同法一五条に基づく産業廃棄物処理施設設置の届出の手続を行うこととしたが、被告千葉県は、千葉県廃棄物処理施設の設置及び維持管理に関する指導要綱を定め、産業廃棄物最終処分場を設置しようとする事業者には、県知事に対する許可申請及び届出に先立つて、事前協議書を被告千葉県環境部生活環境課に提出させ、管轄市町村の意見を聴くなどの事前協議手続を行い、その上で、産業廃棄物処理業の許可申請及び産業廃棄物最終処分場設置の届出させることとしていたため、原告は、昭和五九年五月二日、被告千葉県環境部生活環境課に産業廃棄物最終処分場計画書を提出した。被告原口は、右計画書についての被告千葉県環境部長からの同月二八日付意見照会に対し、八街町町長として、同年六月一八日付で回答したが、その内容は、八街町公害対策審議会の審議において、本件処分場の設置は不適当ではないかとの意見が提出されたほか、同町町議会における一般質問の中でも、三名の議員から小学校児童等の交通の危険性等から、本件処分場の設置には反対であるとの意見が提出され、さらに、議員発議により「西林地先における産業廃棄物最終処分場計画に反対する意見書」が提出され、全会一致で議決され、これが県知事及び県議会議長に提出される予定であつて、本件処分場の設置は、地元住民や八街町、被告千葉県との間で多大なトラブルを発生させるおそれがあり不適当であるというものであつた。これに対し、原告は、近隣住民との協議を行うとともに、処分場の構造を当初のヘドロ、焼却灰等環境破壊のおそれの大きい廃棄物を対象とする管理型から、このようなおそれの小さい廃棄物を対象とする安定型に計画を変更し、また、被告西村から通学路脇の学校側面の山林が提供され、交通の要所に対面交通待避所等が設置されるなど交通安全対策も講じられるに至つたため、被告原口は、同年七月一六日付で被告千葉県環境部長に対し、右計画が適当である旨回答した。そこで、原告は、同年八月八日、千葉県知事に対し、産業廃棄物最終処分場設置の届出をし、同日、同知事から廃棄物処理施設確認の通知を受け、さらに、同月三〇日、同知事に対し、産業廃棄物処理業の許可を申請した。

原告は、昭和五九年八月三一日、千葉県知事から、本件土地を最終処分場、業の区分を埋立てによる最終処分、取扱産業廃棄物の種類を廃プラスチック類(ただし、PCBが付着又は封入されたものを除く。)、ゴムくず、金属くず(ただし、PCBが付着又は封入されたものを除く。)、ガラスくず及び陶磁器くず並びに建設廃材とし、処分場の建設を三期に分けて行うこと、各期ごとに被告千葉県の確認を受けること、産業廃棄物処理の埋立ては各層ごとに覆土整地転圧をし、同被告の確認を受けることなどを許可条件とする産業廃棄物処理業の許可を受け、許可証の交付を受けた。

以上のような手続は、原告が自ら主体となるとともに、被告鞍橋もこれに関与する形で行われた。

3  本件事業の遂行

《証拠略》を総合すれば、以下の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

原告は、前記認定の産業廃棄物最終処分場設置の届出及び産業廃棄物処理業の許可を経た後、本件処分場の現場管理、搬入券の販売等の本件事業の遂行に着手した。

まず、搬入券の販売については、原告が被告旭ライジング関係者らと協議の上、産業廃棄物搬入に関する共同事業基本協定書を作成して、株式会社昇工業及び株式会社ファクトリー・プランニングの二社を中間処理業者として指定し、原告が以前経営していて事実上休眠状態にあつた株式会社速報について、昭和五九年九月ころ、商号変更、定款変更、役員変更等の手続をし、総武開発代表取締役菊地秀仁をその役員に加えた上、同社の名義で、右中間処理業者に対して一括販売することとし、第一工区における販売枚数を合計六、七〇〇〇枚とするとの見通しの下に、まず、昭和五九年八月二四日、第一次的に、一〇トン車一台を一枚として、五〇〇〇枚を一枚当たり一万三五〇〇円合計六七五〇万円で販売し、その後も、相当枚数の搬入券を販売した。また、原告は、訴外有限会社織戸商事の従業員を使つて現場管理を行い、土砂(山砂、黒土、赤土)の搬出、販売等も行い、以上のような搬入券や土砂の販売収入などから本件事業に必要な経費を原告又はニック名義で支払つた上、当初は自ら利益を取得していた。

しかし、その後、原告及びニックは、処分場を計画どおりに作成することができず、近隣ともトラブルを生じるなどの事態となり、搬入態勢が未完成であつたにもかかわらず、指定した中間処理業者以外の業者に対してもさらに搬入券を販売するなど、その時点での本件処分場の受容能力を大幅に超える枚数の搬入券を販売してしまつたため、廃棄物の搬入処理に支障をきたし、業者からも苦情を受けた。千葉県知事が原告に対してした後記昭和六〇年六月二九日付改善勧告までに原告が販売した搬入券のうち、被告鞍橋が、同年一〇月までの段階で未搬入であることを確認したものは、一〇トン車一台を一枚として、約七〇〇〇枚に上つた。

4  被告らの行為

請求原因4の(一)の事実のうち、原告主張の時期に千葉県知事の立入検査、改善勧告、被告千葉県担当職員による指導が行われたことは、原告と被告西村、同原口及び同千葉県との間で、右勧告が千葉県知事の昭和六〇年一月二九日付勧告書を同年二月七日に交付することによつて行われたことは、原告と被告千葉県との間で、右勧告が、地下水層まで掘削し産業廃棄物を埋めたことに対する改善、急勾配法面の改善、中間えん堤及び隣地境界えん堤の改善、中間覆土の施行、場内に保管してある産業廃棄物の措置、囲いの修復、産業廃棄物の飛散防止策の実施を求める内容であつたことは、原告と被告西村及び同原口との間で、それぞれ当事者間に争いがない。

同4の(二)の事実のうち、被告石塚が一般建築の請負及び設計監理並びに産業廃棄物の処理、収集及び運搬等を目的とする被告旭ライジングの代表取締役であつたことは、原告と被告らとの間で、被告鞍橋が被告旭ライジングの社員であつことは、原告と被告千葉県を除く被告らとの間で、被告原口が八街町町長として、被告千葉県が産業廃棄物処理業の許可手続に当たり行つている事前協議において、同被告の環境部生活環境課が行う意見照会に対する回答を行つていたこと及び千葉県知事が原告に対し昭和六〇年六月二九日付勧告書を同年七月一日に交付して、再度本件処分場の改善措置を勧告したことは、原告と被告西村、同原口及び同千葉県との間で、右勧告が地下水層まで掘削し産業廃棄物を埋めたことに対する改善、急勾配法面の改善、中間えん堤及び隣地境界えん堤の改善、中間覆土の施行、場内に保管してある産業廃棄物の措置、囲いの修復、産業廃棄物の飛散防止策の実施を求める内容であつたことは、原告と被告西村及び同原口との間で、それぞれ当事者間に争いがない。

同4の(三)の事実のうち、昭和六〇年八月五日に千葉県知事に対し本件処分場管理者を被告旭ライジングに変更する旨の原告名義の届出がされたこと、原田が同年九月一四日に原告名義の産業廃棄物処理業の廃止届出書、被告旭ライジング名義の産業廃棄物処理施設廃止届出書及び原告名義の産業廃棄物処理業の廃止届出書提出についての委任状と原告の印鑑証明書及び原告名義の産業廃棄物処理業の許可証の原本を被告千葉県に提出したことは、原告と被告千葉県との間で、被告旭ライジングが同年九月一七日に被告千葉県に対し本件土地を最終処分場とする産業廃棄物最終処分場計画書を提出したことは、原告と被告同旭ライジング、同石塚、同鞍橋及び同千葉県との間で、八街町公害対策審議会会長の答申があつたこと及び被告原口が被告千葉県からの意見照会に対し、八街町町長として、同町の町議会及び公害対策審議会の審議を経ずに回答したことは、原告と被告西村及び同原口との間で、被告千葉県担当職員から八街町町長に対し、被告旭ライジングが提出した産業廃棄物最終処分場計画書についての意見照会がされたこと、八街町町長から千葉県知事に対し、同年九月二六日に異議がない旨の回答があつたこと、原告が同日、被告千葉県環境部生活環境課の担当職員に対し、右各廃止届の筆跡が原告のものではないことを指摘して、これら書類は偽造されたものである旨申し入れたこと及び原告代理人高橋直治弁護士が同年一〇月一日付書面で被告旭ライジング名義の産業廃棄物処理業の許可手続を中断し、関係者より事情調査することを要求したことは、原告と被告千葉県との間で、被告旭ライジングが千葉県知事に対し同年一〇月一一日付で産業廃棄物最終処分場設置の届出をし、同知事が同月二四日に同被告に対し、廃棄物処理施設確認通知書を交付したこと及び同被告が同月二六日、同知事に対し産業廃棄物処理業の許可を申請したことは、原告と被告千葉県との間で、千葉県知事が同年一一月一六日に被告旭ライジングに対して産業廃棄物処理業の許可をしたことは、原告と被告旭ライジング、同石塚、同鞍橋及び同千葉県との間で、(8)の事実は、原告と被告旭ライジング、同石塚及び同鞍橋との間で、それぞれ当事者間に争いがない。

以上の争いのない事実と、《証拠略》を総合すれば、次の事実が認められ(る。)《証拠判断略》

千葉県知事は、本件処分場について近隣住民らから苦情が出されるなどしたため、昭和五九年一二月六日及び昭和六〇年一月一四日、廃棄物処理法一九条一項に基づき、本件処分場に対する立入検査を実施し、これを担当した被告千葉県の職員は、原告に対し、同処分場についての改善指導をした。原告は、これに対し、産業廃棄物の搬入を中止して右状態の改善を図つたが、右作業がはかどらなかつたため、同知事は、原告に対し、同月二九日付で本件処分場の改善措置を勧告し、同年二月七日、被告鞍橋が原告の代理人として勧告書を受領した。右勧告は、前記立入検査の結果、許可品目外の木くず、紙くずの搬入という許可品目の遵守義務(同法一四条五項)違反、許可地外での産業廃棄物の保管及び埋立てという産業廃棄物処理業の変更届出義務(同法一四条八項)違反、産業廃棄物最終処分場設置届出書どおりに処分場が造成されておらず、特に、えん堤の不備、処分場の法面の急勾配及び地下水層までの掘削が認められるという届出(同法一五条一項)の内容との齟齬、最終処分場の処理能力を超えた産業廃棄物の投入、産業廃棄物の飛散、流出、囲いの破損、中間覆土の実施が不明であることという維持管理基準(同法一五条三項)違反の各事実が確認されたため、産業廃棄物の受入れを直ちに中止して、右違反事実に対する改善措置について、改善計画書を作成し、同年二月九日までに被告千葉県環境部生活環境課に提出した上、同月二〇日までに改善措置を講ずるよう求めるとともに、右勧告に従わない場合には、同法一四条八項、同法七条一一項により許可の取消等の処分をする旨指摘したものであつた。

原告は、同月一三日、被告千葉県に対し、同月二〇日までに改善を行う旨の産業廃棄物最終処分場改善計画書を提出したが、同月二一日に同被告の現地調査の結果、再度改善指導を受け、さらに、改善期間を同月二一日から同年三月五日まで延期する旨の産業廃棄物最終処分場改善延期願及び改善計画書を提出し、改善を図つたが、これによつても改善ができなかつたため、同月六日、改善期間を更に同日から同年六月一四日までとする旨の産業廃棄物最終処分場改善延期願及び改善計画書を提出し、産業廃棄物の搬入を中止して、改善措置をとつた。その後、被告千葉県の担当者が本件処分場のえん堤の完成を確認したため、同年四月一八日、産業廃棄物の搬入が一部許可された。

同年六月六日、大行社と称する右翼団体やその他数名の者が、本件処分場の出入口に街宣車を横付けして、産業廃棄物運搬車両の出入りを妨害したり、原告に対し公害であるなどと述べて現場を封鎖したため、原告は、本件処分場において、改善作業の続行や産業廃棄物の受入れができなくなつた。

他方、千葉県知事は、同年六月一七日、再度本件処分場に対する立入検査を実施したところ、改善期限である同月一四日を過ぎているにもかかわらず、同年一月二九日付勧告に対する改善措置が終了していなかつたため、同年七月一日、千葉県環境部長室において、原告のほか、被告千葉県環境部長、被告石塚、同西村及び原田らの立会の下に、原告に対し、同月二九日付勧告書を千葉県環境部生活環境課担当者から交付して、再度本件処分場の改善措置を勧告した。右勧告は、同年一月二九日付勧告に基づく改善計画の中の未改善部分を指摘し、地下水層まで掘削し産業廃棄物を埋めたことに対する改善、急勾配法面の改善、中間えん堤及び隣地境界えん堤の改善、中間覆土の施行、場内に保管してある産業廃棄物の措置、囲いの修復及び産業廃棄物の飛散防止の実施を再度求める内容であつた。右勧告書交付の際、被告千葉県の担当職員は、このまま原告に改善作業を継続させたのでは、許可取消にもなりかねない旨指摘し、被告西村も、被告千葉県の担当職員に対し、原告には改善能力がなく、今後は被告旭ライジングの被告石塚が原田の協力を得て改善するので、被告千葉県からの連絡も今後は被告石塚にして欲しい旨述べ、原告も被告石塚が以後改善作業を実施することに特段の異議は述べず、被告千葉県から交付された改善勧告書をその場で自ら被告石塚に交付した。

被告旭ライジング、同鞍橋及び同石塚らは、同年八月五日、千葉県知事に対し、原告名義で、本件処分場管理者を被告旭ライジングに変更する旨の廃棄物処理施設所有者等変更届出書を提出し、同月ころ、被告旭ライジングの名義で、産業廃棄物の搬入業者らに対し、同被告が原告から委任を受けて本件処分場の総括責任者となり、原田が代表取締役を務める株式会社忠起興業を工事責任者として本件処分場における産業廃棄物処理事業を遂行することとなつたこと、原告の発行した搬入券は無効であるから新券と交換すること、第二工区以降の埋立てに際しては、新券のみを使用することなどを記載した通知書を送付した。また、同時に、本件処分場について、大行社らによる占拠を排除した上、千葉県知事から勧告を受けた点についての改善措置を行い、これは、同年九月一二日までに終了した。

右被告らは、同月一四日、原田に原告名義の産業廃棄物処理業の廃止届出書、右廃止届出書の提出を原田に委任する旨の委任状、同年六月一七日付印鑑登録証明書及び産業廃棄物処理業の許可証の原本と被告旭ライジング名義の産業廃棄物処理施設廃止届出書を被告千葉県に提出させ、さらに、同月一七日、同被告に対し、本件土地(ただし、別紙物件目録記載一一の土地を除く。)を最終処分場とする被告旭ライジング名義の産業廃棄物最終処分場計画書を提出し、これら書類は、被告千葉県環境部生活環境課において受理手続がとられた。

被告原口は、八街町町長として、同月二六日、被告千葉県から、右産業廃棄物最終処分場計画書についての意見照会を受けたが、即日、右計画書に異議がない旨回答した。

原告は、同月二五日、前記産業廃棄物処理業の廃止届の提出の事実を知り、翌二六日、被告千葉県環境部生活環境課の担当者に対し、原告の住所の記載が誤つていることや筆跡が原告のものではないことなどを指摘して、右廃止届は偽造されたものである旨抗議し、高橋直治弁護士を代理人として、同年一〇月一日付書面で、被告旭ライジング名義の産業廃棄物処理業の許可手続を中断し、関係者より事情調査することを要求したが、被告千葉県の担当職員はこれに対して許可手続を中断するなどの特段の措置を講じなかつた。

被告旭ライジング、千葉県知事に対し、同年一〇月一一日付で産業廃棄物最終処分場設置届出をし、その際、本件土地使用契約八条の規定に基づき、旭株式会社と総武開発が被告旭ライジングに対して右契約上の地位を譲渡し、被告西村がこれを承諾する旨記載された、被告旭ライジング、旭株式会社、総武開発及び被告西村名義の同年八月二一日付権利者の地位の継承譲渡書等を添付したところ、同知事は、同月二四日付で、被告旭ライジングに対し、廃棄物処理施設確認通知書を交付した。さらに、被告旭ライジングは、同月二六日、同知事に対し、産業廃棄物処理業の許可申請書を提出し、同知事は、同年一一月一六日、同被告に対し、これを許可をした。

被告石塚は、その後、被告旭ライジング名義で本件事業を継続し、本件処分場についてほぼその埋立てを完了した。

二  そこで、以上の事実関係を前提として、被告らの責任原因の存否について検討するに、原告は、自らが本件事業に関する利益の帰属主体であり、損失の負担者であつた旨主張し、このことを前提として、被告らに対し、本件事業の遂行が不可能になつたことによる逸失利益の賠償を求めているので、まず、その前提とする右主張の当否について判断する。

1  前記認定の事実によれば、確かに、原告は、当初、自ら本件事業を企画し、これを被告石塚らに持ち掛け、右事業遂行のため、被告西村との本件土地使用契約の締結に際してもその契約名義人となり、千葉県知事に対する産業廃棄物処理業の許可申請及び産業廃棄物処理施設設置の届出の各手続も行つて、自らの名義で産業廃棄物処理業の許可を得、許可後の本件処分場における現場管理、土砂の採取・販売、産業廃棄物の搬入券の販売、必要経費の支出等も自己又はニックの名義で行い、本件事業が開始された当初は、これによつて得られた利益も結果的に自ら取得していたものということができるから、少なくとも、本件事業の開始当初の段階においては、本件事業遂行の実質的な主体であつたかどうかはさておき、一応、その実務面における中心的役割を果たしていたということができる。

2  しかしながら、原告が本件事業についてどの程度の資本投下をしたのかは、本件に顕れた全証拠によつても判然としないばかりでなく、前記認定の事実によれば、原告は、本件処分場についての当初の計画に従つた十分な管理、運営をすることができず、処分場内の施設が整わないにもかかわらず、受容能力を大幅に超える搬入券を販売したため、近隣住民や業者からの苦情を受け、さらには、千葉県知事からも昭和六〇年一月二九日付改善勧告を受けたにもかかわらず、最終的な改善期限である同年六月一四日までに右勧告に従つた改善を完了することができなかつたものである。右改善期限の直前に大行社らによる本件処分場の占拠が行われたという経緯はあつたが、同月二九日付の再度の改善勧告がなお多くの項目について改善すべきことを指摘しているのみならず、被告旭ライジングが右改善勧告後に原告に代わつて改善工事を行うのに同年九月一二日までの期間を要していることなどからすれば、原告が、大行社らの占拠の有無にかかわらず、本件処分場の改善工事を右改善期限又はそれに近い時期までに終了させる見込みはなかつたものといわざるを得ず、原告に独力で本件処分場において本件事業を適切に遂行して行くだけの管理、運営能力があつたかどうかは甚だ疑わしいところといわなければならない。また、原告の資力についてみても、原告が本件事業を企画した時点で、自ら経営に関与する株式会社加治川建設と有限会社加治川建設は、負債の合計額が四、五億円ないし七、八億円に達していた状況にあり、本件土地使用契約に基づく残土処理使用料の前渡金一〇〇〇万円も自ら調達することができずに旭株式会社がこれを出捐したほどであつて、本件事業を現実に遂行し始めた当初は、土砂の販売代金や搬入券の販売代金による収入から必要な経費を捻出することが可能であつたとしても、原告が千葉県知事の昭和六〇年六月二九日付改善勧告までに販売した搬入券のうち、一〇トン車一台を一枚として、約七〇〇〇枚が未処理のまま残つていたのであり、これは、第一工区全体の受容能力にほぼ匹敵するものであるから、原告がその後も順調に搬入券を販売できたかどうかは極めて疑問であり、搬入券の販売もままならない状況に至つた場合には、資金面での被告石塚らの協力なしに自ら改善工事を継続し、本件事業を遂行して行くことは極めて困難であつたというべきである。さらに、被告千葉県環境部の担当職員も、昭和六〇年七月一日に被告石塚、同西村らの立会いの下に原告に同年六月二九日付改善勧告書を交付した時点では、このまま原告に改善作業を継続させたのでは、許可取消にもなりかねないと判断しており、被告西村も、その際、原告には改善能力がないので、今後は被告旭ライジングないしは被告石塚に改善作業を継続させるとの意向を表明しているのであつて、原告は被告旭ライジングないし被告石塚が以後改善作業を実施することに異議を述べられない状況にあつたのであるから、このことからしても、原告にもはや本件処分場についての改善工事を自ら施して、事業を遂行して行くだけの能力はなかつたことは明らかである。

また、被告西村は、当初から原告との間で本件土地使用契約を締結することに難色を示し、被告石塚又は被告旭ライジング若しくは旭株式会社と契約することを希望したり、総武開発を契約名義人に加えることとしたり、さらには、事業遂行上のトラブルが発生した場合を予定して、産業廃棄に関するトラブルは一切原告が責任をもつて解決すること、原告又は総武開発の事由により本件事業を継続できなくなつた場合には、被告西村の承認を得た上、原告及び総武開発の指定する第三者に権利義務を継承させ、本件事業の完成を図り、被告西村に対し一切迷惑をかけないことなどの契約条項を定めるなど、原告が本件事業を遂行する能力について相当の疑念を抱いていたことが窺われるのである。また、被告旭ライジング、同石塚、同鞍橋らも、当初の契約締結から産業廃棄物処理業の許可申請等の手続、千葉県知事の改善勧告に対する対応などにもことごとく関与し、また、旭株式会社も残土処理使用料の前渡金を立替えるなどしていたし、さらに、原告が千葉県知事から昭和六〇年六月二九日付の改善勧告を受けることになるや直ちに被告旭ライジング、同石塚、同鞍橋らが同西村の意を受けて、原告に代わつて改善工事を行い、本件事業を遂行したものであつて、右被告らに、右改善勧告後も原告に協力して本件事業を遂行させる意思はなかつたことも明白である。

3  以上のような諸事情を考慮すれば、原告が、その主張するような被告らの行為の有無にかかわらず、大行社らによる占拠が行われるに至る以前の時点で、自ら又は被告旭ライジング、同石塚、同鞍橋、同西村らの協力を得て千葉県知事の改善勧告に従つた改善工事を実施し、以後本件処分場について適切な管理運営を行つて本件事業を遂行して行くことは、もはや不可能な状況にあつたことが明らかであるばかりでなく、原告が本件事業を当初から実質的な主体となつて遂行していたといい得るかも極めて疑問であつて、むしろ本件事業を継続、遂行して行く見込みは、客観的には、当初から存在しなかつたものといわざるを得ない。そうしてみると、原告が、本件事業の遂行によつてその主張のような収入を自ら取得し得る地位にあつたとか、本件事業の遂行が不可能になつたことによる損失を負担すべき地位にあつたということはできないから、原告の前記主張は採用することができない。

三  以上の次第で、原告が被告らの行為により、得べかりし利益を喪失して損害を被つたということはできないから、被告らが、原告に対し、その主張のような不法行為ないし債務不履行を理由とする損害賠償責任を負う余地はないものというべきである。

第三  結論

よつて、原告の被告らに対する本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 篠原勝美 裁判官 小沢一郎 裁判官 笠井之彦)

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